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検ゲ湛・販売・マーケティング講座

マーケティング・プロデューサー
平岡 豊

1.トロピカルフルーツと干し柿

「安定食品」という言葉があるそうだ。
栄養学者の河野友美さんによると、子供の頃に食べ慣れた食品らしい。「おふくろの味」ということで、成長してからも、疲れたときやストレスを感じた際などに食べると、心が安らぐという。食育のベースに、この「安定食品」という視点があれば、と思う。その中心は、当然ながら日本型食生活であるべきだ。

そこで一例として果物だが、近ごろでは、高値取り引きを目指したフルーツが話題になっている。いい例が宮崎のマンゴーで、あまりの高値に関係筋までが、先行きを不安視しているようだ。原油高の中で、海外からも「お手ごろ価格」で攻勢をかけられると値崩れが心配である。現状でも、スーパーなどを回ると、「バナナ」では、もう「高級品」が出ており、「適温輸送システム」で、「鮮度のいい甘熟バナナ」が提供できるようになった、とアピールしている。このシステムは、マンゴーやパパイヤなどにも適用できるだろうから、国産のトロピカルフルーツの先行きを考えると、不安になってくる。

一方、日本産果物は、現状では低迷が続いている。しかし今こそ、食育の流れの中で、安定食品化を進めるべきだと思うのだ。老舗の和菓子店の社長に伺ったのだが、例えば「干し柿」などは、和菓子のいい材料になるらしい。しかも、その社長によると、お菓子で使うよりは、そのまま食べるのが一番うまい、という。

ところが近ごろでは、干し柿を食べる子供なんてほとんど見られない。それなのに九州の山深い集落では、シブ柿を山に植えているのである。仕掛け人は、高齢農業者のグループなのだが、鳥獣害を防ぐにはシブ柿が一番だ、ということになったそうだ。ミカンや甘柿は鳥がつついたり、猪などが荒らすが、シブ柿だけはまったく見向きもしないらしい。シブ柿は、栽培にそれほど手間もかからないし、干し柿にするのだから、選別規格も厳しくしなくてもいい。中山間地域における高齢農業者にはぴったりだ、と関係者は話してくれた。

ところが、ほとんど干し柿を食べなくなった状況の中で、どう有利販売をしていくかが大きな問題になっているのである。皮を剥くのは、機械を入れれば対応できるが、高齢者グループでは、売るのに苦労する。そこで、食育を通した安定食品化、といった作戦が大切になる。学校給食などの関係者が、「戦略的」に協力してくれれば展望は開けてくるのだ。灯油も使わないし、人手もそれほどかからない。農村景観としても楽しめる。しかも、消費者が安定食品として食べてくれると日本古来の果物だから、国際競争力は抜群となる。農業経営を、こういった視点から構築することも重要だ、と思うのである。

「完熟バナナ」をうりにした商品ロゴ
鳥や猪もシブ柿には目を向けない

2.木の枝の支柱で、「しなやか」にゆれる

福岡県志摩町にある(有)日高農園。ユニークな洋蘭づくりで知られているが、社長の日高輝富さんは千葉大学園芸学部の出身で、とりわけ育種に力を入れている。そんな中で、「しなやか」と名づけられた胡蝶蘭が誕生した。すっきりと伸びた主軸の先に、ほんのりあでやかな胡蝶蘭が、ゆったりと開いている。花をささえる主軸が、しなやかにゆらぐイメージで、見ていると和やかな気分になってくる。ところで、これまで気になっていたのだが、洋蘭の主軸を支える支柱は、なぜ、カタい感じの太い針金を安易に使っていたのだろうか。結ぶのも細い針金をくるくるっと巻きつけて、いかにも「大量生産」の感じだった。ところが、日高さんの「しなやか」の支柱は、細い木の枝なのである。支柱それ自体が、しなやかな感じなのだ。こうなると、結ぶのも細い麻ひもがいいとなり、やってみると暖かさが出てきた。当然ながら結び切りではなく、やさしく仕あげている。もともと日高さんは、支柱やひもも、自分の仕上げる胡蝶蘭の重要な引き立て役と感じていたので、針金素材が気になっていた。そんな時に、ふと思いついたのが、細い木の枝であり、麻ひもである。日高さんは、それらの「自然素材」を使って枝仕立てをする中で「しなやか」というブランドがひらめいたという。仕あがった胡蝶蘭の雰囲気のものをブランドにしたのである。

◎大和ことばと外来語

ところで日本語には、大和ことばと外来語がある。「しなやか」は大和ことばだから、耳にした時に、すぐイメージが浮かんでくる。さらに、大和ことばは心が安らぎを求めている時などに、とりわけ耳になじむ、と言われている。これに対して外来語は外向性であり、漢語などは、さあ、やるぞ、といった決意表明や行動を起こす時などに、ぴったりとなる。日高さんは、大和ことばと外来語との差異を意識した訳ではないのだが、ふと心に浮かんだものが、実は、優しさや安らぎの表現に適した大和ことばだったのである。ここで、もうひとつ大切なことだが、コミュニケーションは、意味(コトバ)とイメージ(絵)から成立している、ということである。コトバから受けるイメージ、イメージから浮ぶコトバにズレがないと、「いいコミュニケーション」が成立するのだ。その面でも、「しなやか」は、いいブランドだと思われる。洋蘭などは、市場出荷型の大量生産で勝負、といった面もあるだろうが、基本となる花づくりや枝仕立て、ブランドへの深い目くばりをしてほしいものである。とりわけこれからは、暮らしにゆとりのあるシニア世代あたりが、リビングルームで楽しむ、といった動きが大きくなるだろうから、心をこめた「一品もの」といった姿勢での花づくりが大切になると思うのである。

 


3.TPOとかき氷

TPOという和製英語がある。タイム=時間、プレース=場所、オケージョン=場合、といった3つの単語の頭文字をつないだものだ。もともとはファッション用語だったようだが、マーケティングプランを立てる際にも、このTPOを大切にするといい。
話はとぶようだが、大分県宇佐市の山あいの集落に、桑源寺さんという浄土真宗のお寺がある。豊臣秀吉が天下をとっていた頃の創建と伝えられるから、400年以上も前からの由緒がある。この地域では、今でも盆踊りが開かれており、日が落ちるとあちらこちらの集落を回っている。久しぶりに帰省した人の顔も見えて賑わっており、この桑源寺さんにも大勢の人たちが来てくれる。
そこで、夏の夜のお接待として、ご住職と奥さまで知恵をしぼり、かき氷の無料食べ放題をやっているという。一昔前だと大きな角氷を手動式の器械に乗せて、となるが、今では袋詰めの氷がどこにでも売っているし、震動式だから簡単にできあがる。

◎「クズ」イチゴが、生きてくる

夏の夜、お寺の境内、懐かしい顔のそろった盆踊りで一汗かいて、となると、昔ながらのかき氷は嬉しい。子供の頃の思い出話もはずむことだろう。さらに奥さまは、来年からはイチゴシロップのかき氷の中に、本物のイチゴの「丸ごと甘煮」を数粒入れようと考えている。イチゴシーズンの終わりに、出荷できない小さなものを貰ってきて、「丸ごと甘煮」にしているのだが、それをかき氷に入れれば、ふるさとの風情はもっと高まるだろうと楽しみにしているという。何よりも、捨てられることの多い「クズ」イチゴが、夏の夜の主役になれるかもしれないのだ。つまりは、TPOの中で、大きな「商品力」となるのである。

◎直売所で「フルーツ」かき氷を!

これをヒントにすれば、農産物直売所などでの商品づくりやイベントも多様な展開ができると思う。直売所では、かき氷などはほとんど販売されていないようだが、場所もとらず簡単につくれるのに残念である。利益率は高いし「売れ残り」の心配もない。ひと工夫して、規格外の果物を「甘煮」にして冷凍しておけば、直売所ならではの、本物の「フルーツ」かき氷が楽しんでもらえる。夏の昼さがり、ドライブ途中の直売所となると、「フルーツ」かき氷は人気が出ると思う。
それに、「納涼市」なども、もっと企画してはどうだろうか。農業側では、運営規則を作ると、それに安住してしまって新しい活動への「目くばり」を忘れがちなのだが、直売所は人が集まる場所で、商品はお客様が喜んでくれるもの、と考えれば、農産物関連のものが幅広く浮かんでくる。盆おどりのお接待も、大きなヒントになると思うのだ。